卒業設計_推薦の言葉

昨年に引き続き、優秀卒業設計作品の「推薦の言葉」を執筆。
最終稿ではないけれども、UP!
対象は本調作品。


__________________________
「その場所のコモンズ」
1995年以降、建築の役割は決定的に変わった。
国家を装飾することや、家族像を流布すること、つまり社会システムをデザインする役割は完全に無くなってしまった。アクティビティやコミュニケーションはとっくの昔に空間のレイヤーからはみ出している。どんな空間でも監視技術やユビキタス技術によってパノプティコン的状況をつくり出すことが出来るし、いまや空間に依存せずに他人とコミュニケーションが可能だ。いまどきあたらしい空間の提案をおこなっても、単なる思いつきや道楽の域を出やしない。現代では負荷を低減するシステムにしか提案にリアリティが持てなくなっている。
さて、まずはこの状況をうらがえすことからはじめよう。建築が「社会システムをデザインする役割」から離脱して、逆にどんな夢が見られるのだろうか?、と。
そこで本調君が見た夢は、いまさら「地縁」を持ち出すこと、つまり空間でしか成し得ないコミュニケーションの可能性だった。
生きるということは否応なく空間を占拠することだ。人は滞在した場所に特殊な意味づけをし、それを記憶して生きている。たとえば「帰るべき場所」や「郷里」がその最たるモノだ。それを最大限発揮させるムラを、本調君はめざした。具体的には路地や若衆宿・宅老所をリ・デザインすること、たくさんの経験・コミュニケーションの履歴を、特定の共有空間に積み重ねるしくみ、その場所を共有するコモンズとして集落コミュニティを再定義すること‥‥。
そうして生み出された空間は「見たことない」けれども「懐かし」く、「ドロドロ」しているけど「躍動感」にあふれた現代的で前向きな固有解となった。
想いが強すぎ、逆に伝わりにくいところもあったかもしれない。けれども、本調君には執拗に考え続えオリジナルな答えを出すに至ったこの経験を、しどろもどろで発した言葉が詩となって響いたことわすれないでほしい。あなたのやろうとしたことは、村びとの心のなかに、人のいる風景をつくろうとしたことだったのかもしれない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください