「近代建築」、卒業設計特集のコメント

今年の和大の卒業設計の「最優秀」は、2名。
世良裕行君の「ゲンカイオフィス」と、
赤木奈々子君の「カベヒトエ」。
けれども「近代建築」に載るのは、一作品だけ。
赤木さんは雑賀崎集落を取り上げていて、これはゼミで継続的に行っている研究とも連動しているし、学会コンペ受賞作品とも(少しだけ)連動している。
(今回の赤木さんの作品も、ATC「創っ展」で優秀賞を受賞!)
ということで、今回は「初登場」の川根集落を取り上げた、世良君の作品にコメントします。


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「近代建築」卒業設計特集号・世良裕行作品「ゲンカイオフィス」
■推薦のことば
和歌山大学システム工学部環境システム学科助教
平田隆行
大塔村と言えば、地盤沈下の激しい和歌山でも特に問題の多いところだ。衰退する林業、圧倒的な過疎、止まらない高齢化。事情を知れば知るほど絶望的な気持ちになる。
一方、現地に行けば極めて美しい風景に心奪われる。採算度外視で守ってきた田畑、管理しきれないほど繁茂した森、豊かな水。絶望的状況とは裏腹に「遥かなる風景」に元気づけられさえする。
世良君は卒業研究を通してこの「絶望」と「景観の意味」を学び、そして取り憑かれるように設計に打ち込んだ。そうして生まれたのがこの作品である。
まず、集落に「オフィス」を挿入する。
ここで言うオフィスワークとは、単なる事務処理のことではない。事務をインドに外注してしまうグローバル社会では、新しいアイデアを生み出すことこそが「知的生産」である。世良君はそうしたクリエイティブなワークスペースとしての可能性を限界集落に見いだした。作業に没頭できる静けさと、煮詰まった気分を切り替える雄大な景観。これらを活かし、ピュアでインテンシブなオフィスを設計した。
次に、集落とオフィスを繋ぐ仕組みをデザインする。
都市と農村、若者と老人、オフィスと民家。異質な者たちがどうやって出会い交わるのか。道路交通インフラは十分だし、なによりホスピタリティは抜群。定住、滞在、通勤、空家、伝統、助け合い。これらを組み合わせ、緩やかなコミットメントをデザインする。
世良君が描いたのは、単なるオフィス建築や集落景観ではない。それは人が移動し、働き、暮らし、世代交代する新しい社会のカタチであり、新しい価値観である。奇抜な形状や内向的な空間物語ばかりがもてはやされる卒業設計の中で、世良君が社会と未来を構想しえたのは「集落」というインスピレーションがあったからかもしれない。そしてこんなブレークスルーを生み出しうる環境こそが「ゲンカイオフィス」の真の可能性なのだろう。極めて難しい課題に立ち向かい、爽やかな解答を導き出した世良君の健闘を最大限評価したい。

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