2012年度卒業設計・推薦のことば

2012年度「近代建築・卒業制作優秀作品」の推薦のことば。
ことしは、和歌山の漁村・阿尾集落の仮設住宅を扱った山口剛君の作品を評しました。

山口君は毎日DASの建築部門賞を受賞しています。
木造仮設住宅の研究で、チームを組んでいましたが、その成果を設計で発揮してくれました。

「近代建築」卒業設計特集号・山口剛作品「1structure3occasionss」
■推薦のことば
和歌山大学システム工学部環境システム学科准教授 平田隆行
阿尾集落は、南海トラフ地震で最大11mの津波高が想定されている純漁村集落である。2007年以来、阿尾のむらづくりに取り組んで来たが、長期に渡る漁業不振と甚大な被害想定を前に、この場所に住み続けようとする意志そのものが弱まっていることに危機感を感じている。
山口君はそんな漁村集落に仮設住宅を「恒久的」に設置することを提案した。平時には東屋や倉庫として使われるこの建物群は、災害時には避難所となり、仮設住宅へと変化する。住民による自助的な環境整備によって緩やかに空間が整備されていく計画は、体育館で肩を寄せあう一次避難所と人里離れて閑散とする応急仮設住宅を融合した計画だ。
山口君は、東日本大震災、紀伊半島大水害の仮設住宅を数多く見ており、そこで「プライバシーがない」「住民同士の絆が弱い」という矛盾する意見を聞いている。被災者の状況やコミュニティの質によって仮設住宅には全く違う評価が生じるのであるが、阿尾という漁村社会には、そのバランスを自らが調整し、醸成する仕組みこそが相応しいと考えたのである。
土地造成は強引で、吹きさらし空間を日常的に管理しきれるかという問題があるものの、災害を日常の風景の中に位置づけるのこの建築は、住み続けることへの意志を宣言し、海とともに、津波とともに生きていく希望を形として見せてくれるものとなっている。その点を高く評価したい。

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