産経新聞「防災減災わかやま」2014年2月 激増する空き家が避難路をふさぐ

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むらづくりの現場で住民の方に必ず尋ねる質問があります。30年後,あなたの家には誰かが住んでいると思いますか,という質問です。30年後も自分が元気に住んでいるかもしれないし,子どもが跡を継いで住み続けているかもしれません。あるいは誰も住み継がずに空き家になっているかもしれません。その回答を集落ごとに集計すると,30年後のむらの様子が予測できます。 30年後も住んでいる,という答えはあまり多くありません。クエ祭りで有名な日高町の阿尾という漁村では,30年後に集落の世帯数が半分になるという結果が出ました。紀美野町の複数の集落で行なった調査では30年後の世帯数は4割という結果が出ました。海南市下津町の漁村,大崎では3割に減ります。津波などの大規模災害を想定して減っているのではありません。ごく自然に,世帯数が30年間で半分から1/3になるのです。これは驚くべき数字です。

 

世帯数が激減するということは,集落に大量の空き家が生じることを意味します。人の住まない空き家に耐震補強が行なわれることは滅多にありません。雨漏りやシロアリ被害が放置されることもあり,廃墟となった空き家は強い地震が襲えば簡単に倒壊してしまいます。漁村では狭い路地に寄り添うように密集して住宅が建てられており,倒壊すれば避難路を閉ざす可能性がとても高い。一軒倒壊しただけでも避難路はふさがり逃げられなくなりますが,そういった空き家が数十軒もあるという状況が生じます。これでは避難路がどれほど整備されていても,あちこちでふさがってしまい使いものにならないでしょう。 空き家化は問題ですが,世帯減少は悪いことばかりではありません。家が少なくなれば密集度は低くなり,火災の危険は減ります。空き地は避難路としても使えます。低い場所の住宅と高い場所の空き家を交換すれば,集団移転をしなくとも安全なむらが実現します。そもそも家が少なくなることで,通風や日照などの住環境がよくなるところもあるでしょう。世帯が減り,空間に余裕が生まれることで可能となる防災・減災手法もたくさんあります。

ただし,これは大量に発生した空き家を,計画的に,適切に処理した場合です。何もせずに放置すれば,空き家は避難路をふさぐ厄介者にすぎません。和歌山県は全国に先駆けて空き家を撤去したり耐震化するための条例をつくりました。「景観支障防止条例」と「津波からの円滑な避難に係る避難路沿いの建築物等の制限に関する条例」です。この条例は空き家所有者が従わない場合は行政代執行もできる実行力のある条例です。財産権の問題などハードルもありますが,これらの条例を使うことで,災害に強いむらづくり,まちづくりが可能です。ただし,誰かがやってくれる訳ではありません。地域が主体となって要望を出さなくては動きません。地域の防災にどれだけ本気で取り組めるのか,が鍵になります。

 

写真キャプション
廃墟となった空き家。それほど大きくない地震でも避難路をふさぐ可能性がある。

 

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