今月も建築ジャーナルに記事を書いています。(串本です。)
で、これは前回の記事。建築ジャーナル7月号に載ったものです。
「女性的な印象の田辺市立東陽中学校のエントランス」
カンヌフィルムマーケットでも上映された太田隆文監督の「海と夕日と彼女の涙 ストロベリーフィールズ*」は和歌山県田辺市で全編ロケされたリージョナル・ムービーである。この映画の舞台が、すでに取り壊しが決定している木造校舎、田辺市立東陽中学校である。昭和初期に旧制高等女学校として建てられた建築で、両翼を持つプラン、高い天井、丸窓、むくり天井など、女性的で華麗なデザインが施された気品ある中学校である。教室から直接出られる中庭には色とりどりのバラが植えられ、女学校の頃から全く変わらない環境が受け継がれている。この風景には思わずため息が出るほどだ。
和歌山県橋本市の高野口小学校もドラマや映画の撮影に使われることの多い建物である。こちらは寺社建築を思わせる風格あるエントランスをそなえた3,000平方メートルを超える大規模木造校舎である。かつて取り壊しの危機に直面したが、保存運動が起こり、行政はその声を聞き入れて建替えを撤回した。そして今年、和歌山大や地元建築士を中心としたNPOチームが改修設計を完了し、いよいよ施工を待つばかり。そう思っていたら、市町村合併で計画は縮小・延期されてしまった。
東陽中は安全性の観点から建替が決まり、高野口小は別の小学校との格差を懸念して改修が凍結。危険なら即建て替え、造る施設は例外なく横並び。市町村合併によって地域行政が広域化されたことで行政判断はパターン化してしまい、独自性のある試みが出来なくなってしまっているのかもしれない。
*註:この映画の時代設定とほぼ同じ時期、ビートルズの1967年の曲に「Strawberry Fields Forever」がある。この曲はジョン・レノンの故郷にある孤児院「Strawberry Field」をうたったもの。なお、太田監督の故郷は田辺市。