和歌山大学システム工学部10周年

更新滞ってもうしわけない。
実はドラフト(かきかけ)があるのだけど、ポリティカルな話題がはいってて、選挙前だから公開してないのね。一応、大学であるし。
さて、
もうすぐ和大シス工10周年。
十周年記念誌を出すことになりました。フリータイトル、内容フリーで 2P、ということで書いた原稿がこれ。
ただし、ボツ(笑)。せっかくなんでUPしておきます。
内容はこれまでポリタンコに書いたとことあまり変わりません。


ともに考える時間と場所
濃密な海外集落フィールドワークを行うかと思えば、オフィスアワーは学校計画を練り、夜中はネットにダイブする。そんな私が和大に赴任したのは今から25ヶ月前、03年の4月のことだ。学ぶ立場から突然教える立場に転向して面食らったことは確かだし、いろんな失敗もあった。しかし、立場が変わって驚いたのは、大学のあり方をめぐる世の中の動きであり、大学の存在そのものに大きな危機感を持ったことだ。
その理由は2つ。ひとつは「学校化社会」が疑わしくなってきたこと。よく言われているように、高度成長期における高等教育機関の役割は都市のオフィスワーカーの質を担保することにあった。人材の規格大量生産と分かりやすいラベリングとしての「大学名」は確かによく機能していたのだろう。しかしこれがゆっくりと崩壊してきた。よい学校を出ればよい人生を送れるという神話は疑わしくなり、交通手形としての卒業証書の価値は無くなりつつある。
もうひとつは「ちょっとしたリテラシーがあれば大学の講義やスキルは、もっと効率よく学べる。」という情報社会が実現したこと。01年にMITが始めたOCW*1にアクセスすれば、MITの最新の講義資料が自由に閲覧、再利用できてしまう。有線化とマルチチャンネル化によって受信できるようになった放送大学では修士さえもらえるし、取材費をつぎ込んで放送のプロが編集した番組は大講義室で行われる講義よりも断然密度が高い。いつでもだれでも自分のペースで最先端の学問を学べる可能性が、大学の外側にいくらでも広がっているのだ。
情報化社会の到来は講義室でも起こっている。講義室での最近10年の変化はパワポ(PowerPoint)の普及につきる。ヴィジュアルなプレゼンはとても分かりやすいし、教員の授業準備はパワポを用意することと同義になっている。しかし、よく出来たパワポであればあるほど、教官がその場にいる必要が減ってきたことに気がつく。無声映画なら弁士がついたが、トーキーなら弁士はいらない。教官の役割とはよく出来たパワポを見つけて上映キーを押すことにかわるのかもしれない。自作自演の紙芝居から弁士、そして上質なコンテンツを次から次へと上映するDJへとその役割を変えていくのかもしれない。
さて、この現状で果たしてこれからの日本を動かしていくような「デキる奴」がいまさら大学の講義室にやってくるのだろうか? 知の開放と情報の流動性が高まった今、生の(ライブな)講義が担うべき役割とはいったいなんだろうか? 
この命題を気にしながら、2年ちょっとの間、演習、ゼミ、学生とのコミュニケーションを行ってきた。そして最近になって大学の持つ可能性をおぼろげながら感じられるようになってきた。ひとつは面接コミュニケーションの力。学生は授業で受け取る情報の価値を、その情報が誰がどのように発したか?を見て判断する。学生は何を言っているのではなく、どんな奴がどんな風に言っているのか?を見ている。教官がそのことをどれだけ信じているのか? こういった付帯情報こそが学生をインスパイアするのだ。情報とは、どうやってそれが届いたのか、という伝送経路が特別の意味を持つ。それが大学の意義のひとつだ。もうひとつは、フィールドの重要性とその効果。学生がトライ&エラーを繰り返しながら、オンザジョブで、自分の手を動かしてやってみる。問題を発見することの難しさにくじけそうになりつつも、対処出来たときの悦びを感じること。状況を判断し、いろんな人々と恊働しながらゴールをめざすこと、経験を積むこと、の重要性だ。学生にワイルドでありつつ、セーフティーネットのかかったフィールドを用意するのは大学の大きな役割かもしれない。幸い、環境システム学科はフィールドと人材には事欠かない。自発的に何かを改善しようと言い出せるリラックスした空気、ともに考え、手を動かし、知恵を出し合いながら知的生産が行える自由な交通の場所、そんな場所を維持していくことが、最近楽しくてたまらなくなってきた。(平田隆行)
* OpenCourseWareの略。MITがはじめたネット上に高等教育の教材を無償かつ柔軟な著作権にて公開・配布する「知の開放」の試み。欧米有力校が次々と追随し、日本でも東大だどが2005年より開始している。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください