南海トラフの地震は,東海(駿河湾)・東南海(御前崎沖から紀伊半島沖)・南海(紀伊半島沖から四国沖)の大きく3つの震源域にわかれます。この3つの震源域は同時にずれ動くこともあれば,時間差で動くこともあります。1707年の宝永地震は同時に起こり,1854年の安政地震では32時間の時間差がありました。さらに1944年と1946年の昭和地震では2年もの時間差がありました。過去の地震履歴からは、東南海の震源域がずれ動いた後に南海の震源域が動くことがわかっています。時間差は同時から2年と幅はありますが,ずれ動く順序は決まっているようです。
さて,問題はこの時間差です。仮にいま東南海で地震が起こったとしましょう。南海地震はまだ発生していませんが,時間差で発生することは確実ですので警戒しなくてはなりません。学校は休校になるでしょうし,公共交通機関も運休するところが増えるでしょう。職場では危険性のある機械を止め,船舶は沖合で津波を回避しようとするはずです。津波の浸水域にある住宅では避難が呼びかけられ,高台の避難所で過ごすことになるはずです。
警戒が始まってから一日,二日,おそらく一週間はよいでしょう。しかし,地震が来ぬまま一ヶ月,二ヶ月,半年が経ったとしたらどうでしょうか。いつまでも学校を休校にするわけには行きませんし,工場を止め続ける訳にも行きません。避難所での集団生活は大変厳しいですが,かといって仮設住宅が建てられることはありません。不安から他地域へ避難する住民が多くなれば商業も影響を受けます。観光業への影響はもっとも深刻で,観光客はほとんど来ないと予測されます。これが2年以上も続く可能性があるのです。どのような社会的混乱が生ずるのかはよくわかっていませんが、地震が起こる前から大きな影響が出ることが懸念されます。仮に昭和地震と同様な地震だった場合、警戒する期間は2年以上とその影響は大きいですが、地震津波の被害はそれほどでもない、という矛盾した状況が起こることになります。
2年以内に地震が来ると警告された場合,皆さんはどう行動するでしょうか。安全な地域に子どもを預けることや、家財を高所に移動するなど、今から考えておくのは無駄ではありません。警戒が長期化した場合に,その影響を小さくする努力も重要です。商売や企業経営をされている方は、対策を講じておくべきかと思います。マグニチュード9.1クラスの巨大地震は滅多に起こるものではありませんが,時間差をおいて地震が発生する可能性は,それと較べてずっと高いと考えられています。近年、地震・津波観測監視システム(DONET/DONET2)の監視網が紀伊半島沖に張り巡らされるなど,地震の徴候をつかむ技術は格段に上がっています。これらの監視網が異を察知し,警戒が宣言された場合にも、これらの備えが役に立つと考えます。
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東日本大震災で被災した越喜来小学校(2011年4月11日,岩手県大船渡市)
地震襲来が確実とされる状況下での学校教育はどうあるべきだろうか