スタジオ運営

先日言っていた、建築教育論(やな言葉だな)の原稿です。
もちろんここから手直しが入るけど。
全体的には後半部分です。
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「つながる場所としてのスタジオ運営」
学生が地域に出て自分のフィールドを持つようになると、問題を発見し難問を突きつけられ、日夜作業に追われるようになる。するとどうしてもその作業だけに没頭してしまう。しかしグローバルで同時代的な問題、あるいは社会や歴史に通じていると解決の糸口が見つかることもある。ローカルで活動しつつ、世界最先端で話されている言葉を知ること。ローカルな問題をコンテンポラリーな問題として捉え、別の世界に向けて発信すること。この、ローカルな実践とグローバルな情報が交錯する場所として、スタジオの意義がある。フィールドでは問題をつかみ取り、スタジオでは情報を交換し合って知恵をだす。それを武器にもう一度フィールドに向かう。ミクロに観察しながら複眼思考で眺めることを学ぶのである。異なる得意分野を持つ人が突然口を挟む「偶然』が起こりうる場所、グローバルな建築情報が自ずと集まり、なぜか知ってしまう場所、たえずだれかと議論をおこなえる場所、それこそがスタジオなのである。ここでは一方的に知識や技能を伝えるというよりはむしろ、たえず「なにかが創られて」いて、たえず「何かが起こって」いて、たえず「何かが集まって」くる場所である。この状況を創り、維持することが、建築を学ぶ環境づくりとしてとても大切なことである。
トナリは何をするヒトぞ・フィジカルなスタジオ空間
隣にいる同級生が楽しそうに行っている作業がなんなのか? 何を深刻そうに考えているのか? 共通する問題はなんなのか。無関心を装いつつも、隣の机の作業の進み具合はやる気とレベルをインスパイアする。それだけではない。この横目で見ていたことが後々大きく役に立つ。自分も似たような課題に直面する日がきっと来る。その時、この隣の机で行われた作業を思い出すかどうか? 同じスタジオでいろんな人がバラバラに、ところ狭しと作業することは一見効率が悪いように見えるけれど、時と場所を共有して考える場こそが建築教育スタジオの醍醐味だ。だから、建築設計のスタジオは、設計・研究のテーマを絞り込むのではなく、できるだけ多様なテーマが同居していた方が、包容力が豊かな方がいい。ちょっと難しい文献を読む読書会、人を呼んでの講演会などがたえずプロデュースされていることが大切である。
Think globally, act locally・ネット上のスタジオ空間
ヴァーチャルなweb空間がコミュニケーションを補完する。先輩、後輩、卒業生、教官、地域、他大学、地域、異分野。それはいま何をしているのかをたえず世界中に発信し、フィードバックを得ること、だ。
かつての地方大学は情報の中心から遠いという不利な条件を抱えていた。それは情報が集まらないということではなく(情報を得ることは昔からさほど難しくはなかった)情報を発信する機会を持てないということ、つまり雑誌社などマスコミとの距離だった。それは「どうせ地方だから」というあきらめと、「いくら良い建築を建ててもメジャーにはなれない」という劣等感を抱かせた。だが、今は違う。ローカルでしかなかった試みが広く評価される可能性が開かれている。それはネットの力である。学生が今行っているプロジェクトを、そのまま公表し、設計演習の結果を世に問うことができるのだ。手軽に双方向に発信できるブログ(blog)やコンテンツマネジメントシステム(CMS)を安価なPCの上に組み立てるだけで、自分の言葉を世界に発信する「可能性」を持てる。世界に向かう緊張感を持つのである。
もうひとつ、ネットのスタジオの持つ重要な意義は、卒業生、つまり異世代のつながりだ。就職先での実践報告から現役学生への助言、就職・アルバイトの募集、最新の建築情報など意義は多い。常に学び続けなければならないのは卒業生でも同じこと。生涯にわたって学び、また自分の成果を還元する場所としてのスタジオがネットの上にあることは、現役学生、卒業生とものメリットがある。さらにネットでつながっていさえすれば、年に一度くらいはフィジカルなスタジオにも集まって直接議論もできるだろう。
建築教育とは、学生自身が建築との対峙の仕方を自ら試行錯誤して学習する行為である。発見すること、つくること、発信すること。たとえコストにあわないものであれ、真剣に調べ、何度も創りながら壊し、世に問う。このサイクルを行なえる状況・機会・場所をつくること、これが建築教育の実践に他ならないであろう。建築設計教育の実践とは一握りのエリートにデザインのオリジナリティを開発させるものではない。むしろ建築が理想的に生み出される場所を維持すること、その環境の中で建築を考え創ってみるという経験を与えることにあるのではないだろうか?

スタジオ運営」への4件のフィードバック

  1. wakuの言ってることはよくわかるよ。
    モチベーションが最初から高いのならば、それでOK。問題は、モチベーションをどのように持たせるか?にある。
    「げー、たのし〜」、とか、「うわーかっこえー」、とか、そういうサムシングハプンが起るようにつくる。とっかかりを仕組めば、あとは自ずと生まれてくる。でも、自ずと生まれてくるのは、「文化」だからなんだよね。そういう「文化」がないならば、その「文化」を見せなくちゃならない。一度見せればあとは勝手に生まれてくる。
    でもまー、スタジオの面白さってのは、人の作業をチラ見することだし、結局は人、なんだろな。

  2. さて、こちらの新キャンパス、楽しいスタジオができるかどうかはここ二ヶ月ぐらいが勝負です。
    残念ながら詳しくは書けないんですけど。
    利害が多すぎるし、面積的にも厳しくてなかなか難しいですねぇ。

  3. すごい。一瞬で読んでしまった。これって学会関係ののヤツですか?おもろいんでできたら見せて下さいね!

  4. ほ〜、なんかすごい文章ですね。
    ただ単に興味があって、見よう見まねでやってきたホームページ作りも、なんかこの文を読むと少しは役立つのかな〜なんて気になっちゃいました。
    これからもバシバシ土足で入っていくんで、暇があるときは色々教えて下さいね〜。

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