産経新聞「防災減災わかやま」2013年8月 地域で木造仮設住宅建設に備える

 

 

十津川村の木造仮設住宅

十津川村の木造仮設住宅

産経新聞の8月連載は「木造仮設住宅」を取り上げました。
研究室でも、木造仮設住宅の備えに取り組んでおります。

まもなく、台風12号による豪雨災害(紀伊半島大水害)から2年が経ちます。全国の死者・行方不明者は98名、和歌山県では昭和63年以来23年ぶりに災害救助法の適用を受けた大きな災害でした。

この災害では、和歌山県44戸,奈良県114戸の計158戸の応急仮設住宅が建設されています。あまり知られていませんが、奈良県十津川村・野迫川村の仮設住宅と、和歌山県の仮設住宅には違いがありました。大きさや設備は同じなのですが、十津川村・野迫川村のものは木造で、和歌山のものは鉄骨プレハブ造なのです。

仮設住宅と聞けば、鉄骨プレハブ造を思い浮かべる方が多いと思います。実際、阪神・淡路大震災、東日本大震災では鉄骨プレハブ造がほとんどでした。災害直後に迅速・大量に供給するためには、規格化・工業化された鉄骨プレハブ造はとても理に適った構法なのです。

一方、木造には別の利点があります。紀伊半島は「きのくに」の名が示すように、林業が盛んな地域です。地元産の木材を活用でき、地元の大工が施工できる木造仮設は、被災地に雇用を生みだします。復興には、生業の復興が重要ですが、木造の仮設住宅は、被災直後の被災地に仕事をもたらすのです。実際、十津川村の木造仮設住宅では、木材の9割が県産材で、村内産材の割合も6割を超えており、大きな効果を上げました。また、いかにも仮設という鉄骨プレハブ造に比べ、木造には住宅らしさがあり、新築の木の香りは住まいを失った被災者の心を癒す効果も期待でます。実際、居住者の評判も良いのです。木造仮設住宅はよいことばかりに思えますが、木材は山で伐採してから材木になるまでに時間がかかり、生産に限界があります。南海トラフ巨大地震のような大規模災害時にはとても対応できません。素早く供給するためには、鉄骨プレハブ造も必要なのです。

ここで重要なのは、地域でできる復興は地域であらかじめ備えておき、できないことは広域で備えておく、という考え方です。まずは地域で木造仮設住宅を建設できるよう備えておく。地域で太刀打ちできない場合には、より広域で助けあうという考え方です。小規模であれば地域の木造、大規模なら鉄骨プレハブ造というわけです。あらかじめ地域で備えておけば、地域に仕事を生み、地域の実情にあった住みやすい仮設住宅ができると思います。

さて、和歌山には日本を代表する木造仮設建築の歴史があることをご存知でしょうか? かつて熊野川の河川敷には「川原家(かわらや)」と呼ばれる組み立て式の住宅がありました。熊野川が増水すると解体して高台に上げ、水が引くと河川敷に建て直したそうです。和歌山にはこのような仮設住宅の伝統があるのですから、ぜひ、地域の木造仮設住宅の備えを進めていきたいものです。(1144文字)

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